最初に見た映画

僕が映画館で上映された映画に自分で初めて行った記念すべき映画。
それがこの「1999年の夏休み」という映画です。
高校の先輩に連れられた映画鑑賞でした。小さな映画館。
地元では珍しい過去の名画を扱う映画館で、いろんな大人の映画好きな人と仲良くなったきっかけでした。そういった意味でも、僕にとってこの映画は思い出深いものになっています。

僕は当時の認識はアイドルとしての深津絵里でした。

アルバム「アプローズ」がリリースされる頃だったと記憶しています。

当時、僕はそのアルバムを買ったんですね。彼女の歌声がとても好きだったし、高原里絵という名前でも女優・歌手デビューしており、対談と称してバレバレの合成で写真に納まる二組をオリコンの雑誌で見て苦笑した記憶が凄くあるんですよね(笑)。

で、当然最初は彼女を目当てに観に行ったのですが、そのうちにこの話自体にどっぷりハマり、原作(というかインスパイアされた感じですよね)の「トーマの心臓」も読み、セリフを覚えてしまうくらいに何度も見直したりする映画になりました。

あの当時1999年という年がやってくる事にどこか近未来的なものと退廃的なものを感じていた僕たち。その1999年からももう16年という月日が経ってしまっているんですねぇ…。


この映画にはいくつかの特徴があります。

まずは少女が少年を演じているところ。

これは原案の「トーマの心臓」が少女漫画であるというところが大きいのかもしれないですね。

萩尾望都さんの描く絵の世界観を少女が演じることで表現したのかもしれませんし、当時はこれを男子が演じて公開されるという事は難しかったかもしれませんね。

実際にこの映画は何度か頓挫しているようですし、撮影直前に中止となったところをソニーに拾われたという事があったようですし(監督の公式サイトより)

そして次が美しい自然の描かれる映像美。森の緑、空の青、動物、花、風。

全てが美しく、そしてどこかフィルターのかかった感じがする。

美しい校舎や寄宿舎(横浜市指定有形文化財に指定されている大倉山記念館だそう)の窓に吹き込む風が少年たちの心の動き、ざわめきを時に表し、合間合間に挟み込まれた蝶の羽化までの進化が少年たちの心の成長を表しているようだった。

そこに中村由利子の「風の鏡」収録のピアノ楽曲が流れると、ますます世界観が確立されていく。

少年たちの危うくも素直で、純粋ながらも苦悩する。線の細い頼りなさと芯の強さ。いろんな相反するものが混ざり合う美しさが表現されている。

4人の少年たちは皆心に孤独を抱えている。みんなが夏休みで家に帰っていくのに帰れない4人。

家族愛というベースが彼等にはそもそもないのだ。愛されたいのに愛されない。愛したくても愛し方が分からない、庇護されたいのに放りだされ心に寒さを抱えている彼ら。

和彦は影を持ち合わせながらも人を惹きつける雰囲気が大寶智子によって見事に描かれている。

映画の内容もそうなのだが、この映画のキーパーソンは大寶智子と言っても過言ではないと思う。彼女の存在感、中性的美貌、演技力は4人の中でもずば抜けて光っており、彼女が映画を観るものを引き付けていくからこそ物語に引き込まれていくのだ。

則夫が言うように、何もしてあげなくても、優しくなくても好かれ愛され、けれど当の本人は全くそれに気づいていない和彦。しかし彼にはそもそも愛情というものが分からず、受け取り方も与え方もわからないのだ。だからこそ悠のように弱々しく見えながらも何度も心を伝えてくる強い愛に、絡みつくような重さを覚え、突き放してしまったのだろう。

悠と薫と二役をこなした(もっと言うと三役かw)宮島依里もこれがデビュー作。今は声優を中心に活動している。悠の弱々しい儚い少年像を時折ふと見せながら快活な少年薫を演じている。

和彦を惹きつけ、自分のものにしていくときに見せる表情の鋭さ、和彦と湖に身を投げる前のシーンでの演じ方は圧巻だ。

直人は中野みゆき。今は川合俊一の奥さんだ。彼女はそのルックスの大人びた雰囲気に直人があっていた。直人は大人のふりが上手な少年だ。だがその分損な役回りをするタイプ。和彦にも自分の率直な思いを伝えられず、守ってあげる事で自分の存在を示す事しかできない。そうやって己の感情をコントロールしながらも漏れ出てしまう激情を抱え、それを薫に向けてしまう直人。やっぱり4人の中では一番損な役回りだ。

そして則夫は深津絵里。4人の中でひとり年下の則夫は悠に憧れ、まるで兄のように慕っていたようだ。薫にそれを重ねようとするが、そうではない事も一番知っているのは則夫。その辺のコントロールも効かないし、悠を失ったことで和彦には憎悪がある。深津絵里はこの映画の中でストーリーの側面を語り、みんなをどこか俯瞰してみているナビゲーター的な役割を担っている。

少年たちの揺れ動き、やがてぶつかっていく感情。

そうやって自分も人も傷つけていく事で成長していく彼等の心。

最後にまた新たな少年が登場するラストシーンで魅せる3人の変わらないようで変わった表情がそれを表現しています。

好きな人はきっと何度も見返すであろう麻薬のような(笑)映画です。

Waguri's Staff Blog

J-POPアーティスト、和栗卓也のスタッフによるブログです。和栗卓也の話以外もいっぱい書くほぼ私的なブログ。